ヒエッ
前回書いた「迷いを断つためのストア哲学」についてのこぼれ話。
僕が読み終わった本のカバーを見た妻が一言、「迷いがあるのね」と言った。
「最近悩んでてさ」
僕はそう言いながら、気分転換に散歩がてらコンビニへと彼女を誘いつつ、本の内容を簡単に説明した。
勿論、片道では言い切れない。
コンビニでビールとチューハイを掴み、妻の好きなグミをかごに入れ、会計を済ませる。
帰り道、話を再開しながら、足元で何かが動くのを彼女は見つけた。
セミの幼虫だ。
僕はそれを初めてみた。抜け殻になる前の、動く姿を。
地面から出てきたであろう幼虫は、ナウシカの王蟲の赤ちゃんのようにも見え、一所懸命に前に進んでいる。
うわー!と思った感情はすぐに消え、前へ前へと生きようとしている姿を見ると、不思議と、頑張れ、といった気持ちが湧いてくる。
そんな不思議な光景を後にしながら、中断された話は再開される。
そして、ストイックにいくとなると、自分のやるべき事に時間を費やすことになるので、例えばこうした二人の時間は減るかもしれない、というようなことを言う。
そうすると妻はすぐに反応した。
「それって、私との二人の時間よりも、つまり家庭よりも、勉強のほうが優先順位が上にある、ってことだよね」
そして僕は自らの軽率な発言を悔いるのだ。
それと同時に、彼女の直感力というものが鋭いことに驚く。
女性がそういうものなのだろうか。自分が蔑ろにされると感じてしまうのか、あるいは常に自分が一番でないと耐えられないのか。
そこにはプライドが絡んでいるのかもしれない。
ここで断っておきたいのは、妻は多くのことで寛容だし理解がある女性だということだ。
苦労をかけるようなことがあっても、文句を言いながら、あるいは文句もいわず、お互い協力し合う信頼関係が築けている。そしてそれは当たり前のことだとも思い合っている。
そうではない、すれ違ってしまう家庭は、結構あるんじゃなかろうか。
そう思えばこそ、僕は感謝の念を覚えるのだ。
話を戻そう。妻は鋭く迅速に彼女にとっての問題点を直感した。
そう言われてしまうと、もう僕はしどろもどろだ。
結局の所、本気で詰めてくるようなことはしないので、僕はヒエッとしてその話は終わるだけではあるのだけども。
さて、僕が言いたいのは、何が大切かということを常に思い返さないといけない、ということだ。
不安や焦りに囚われて、本当の目的を失ってしまうことがある。そういうときは、得てして視野が狭くなっていたりするもものだ。
大切なものほど、気づかなかったり、あぐらをかいていると、ちょっとしたことで崩れ落ちたりする、そういう脆さが実はあるんだということは、過去に学んできたつもりだ。
それでも、僕は愚かで、そうした心配が消え去ると、安定していると、ついついそうした大切なことを忘れてしまう。
僕にとって大事なことはなにか、ということを再度考えさせてくれた、そいういう夜だった。
あのセミの幼虫が、これからその殻を破って、その短い命を燃やし尽くすように、僕は僕が大切だと思えるものを忘れずに、古い殻を破って、自分の世界を広げたい。
そんなことを思った。