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老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路

最近、「老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路」という目を引くタイトルの新書を読んだので雑感を。

老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路 (講談社現代新書)

老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路 (講談社現代新書)

 

 

都市計画という観点から眺めた時に見えてくる、現在の日本社会が抱える問題点を分かりやすくまとめてくれている良書。

どのような現状があるのか、そしてどのような問題点が語られているのか、というところを、少しまとめてみた。

 

現状の認識

目下人口減少の道を歩む日本は、不思議な事に住宅過剰社会なのである。

通勤電車の窓越しに、あるいは街を散歩中、あるいは車で他の街に出かけた時など、新築住宅が建設中である場面を見ることはよくあることだと思う。
しかし人口が減っているのになぜそんなにもポコポコと建てられるのか、不思議に思ったことは無いだろうか。
そこで、総務省統計局のホームページを覗くと、どのような現状かを確認することができる。
(以下の図はいずれも当該HPから引用)
 
2013年時点において日本の世帯数は約5245万世帯であり、それに対して住宅数は6063万戸ある。下図の通り住宅過剰の状態が常態化しており、そのギャップは年々増すばかりだ。

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空き家数の推移も下図ご覧の通り右肩上がりである。
その他というのは、賃貸用、売却用以外の人が住んでいない住宅で、転勤・入院などのため居住世帯が長期にわたって不在の住宅や建て替えなどのために取り壊すことになっている住宅などにあたるのだが、取り壊されずに空き家のまま放置されている物件が多くあり、治安面や災害面でも問題になっている。

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なぜ建て続けられるのか。それは、売れるから建てるのである。
供給側である住宅・建設業界が特に分譲タイプの戸建てやマンションを大量に建て続けている理由は、土地取得費や建築費といった初期費用が短期間で回収できるため事業性を確保しやすく、引き渡し後の維持管理の責任も購入者に移るため事業リスクが低い。
購入側は住宅は資産と考え、また住宅ローンは減税や優遇措置も得られることが多いので賃貸より有利であると考えられるからだ。中古住宅という選択肢もあるが、まだま市場が未成熟であり新築住宅が中心である。
したがって、売れるから建てるというサイクルはなかなか止まらない。
 
では、建て続けられていることが、何がそんなに問題なのか。
一体、どのような問題があるか。
 
 
どのような問題があるか
 
居住地としての基盤が未熟な地域にも焼畑的に建設し続けることで、多額の税金が投入されざるを得なくなる、その無計画性、あるいはコントロール不能状態が挙げられる。
本書ではいくつかの自治体での実例を上げているが、ここでは大雑把に以下2つのエリアで、どのような問題があるか本書から紹介する。
 
- 東京都市部における問題
- 郊外地域における問題
 
 
都市部においては、タワーマンション乱立に伴う人口の急増、それによる社会インフラのコスト増という問題がある。加えて、タワーマンション内での合意形成が困難であることが管理不全に陥る危険も指摘されている。
例として湾岸地域におけるタワーマンションの問題がある。
現在、中央区江東区の湾岸エリアでは、2014年末で8.6万人の常住人口がいるが、将来東京五輪後にはこれに加えて約10万人もの増加が見込まれている。こうした人口の過密化で何が起こるかというと、例えば生活関連施設の不足が問題となり、保育園・幼稚園あるいは小学校などの不足、地下鉄のホーム過密などなど、社会インフラの問題が深刻化しており、実際に後追いで公共投資が必要になり、多くの税金が必要となるのだ。
それだけではなく、マンション内での合意形成というのは通常難しいものであり、それがタワーマンションともなると色んな人が存在するわけで、もっといえば投資目的に購入しそこに住んでいない人だっている。合意形成が難航すれば、マンションを健全に運営することもままならず、資産価値としても低下する恐れがあるのだ。
居住者が増えれば税収も増えるだろう、という見方についても本書は否定する。
東京は地方都市に比べて高齢者の数が圧倒的に多くなる傾向にあり、今後老人ホームの増設や医療・介護サービス等の社会保障関連のコストが莫大になることで、他の都市よりも相対的に貧しくなる危険性を指摘している。
 
ところで、なぜタワーマンションが乱立しているか。
それは、国や自治体がそれを後押しするかのように、「再開発等促進区を定める地区計画」という、まとまった低・未利用地の土地利用を促進するため、都市計画規制を特別にかつ大幅に緩和していることが要因にある。一定の条件を満たし自治体の許可があれば、面倒な手続きを経ずに容積率等の緩和が得られるという制度があるのだ。
これはもともとバブル前から都市部の土地が高騰し続けてきたことで、住宅用として都内の土地取得があまり促進されず、また工場や倉庫もすでに未使用となったことで土地が未活用のままであったことで、土地を有効利用することを目的とした制度作成の流れがあった。
それが回り回って無計画的なマンション乱立をもたらし、地域に大きな変化を生じさせている。
もう一つ付け加えると、筆者自身も強く疑問に思っていることとして、自治体によっては規制緩和だけでなく、多額の補助金投入がされている場合があるという点がある。
無論すべての自治体ではないが、超高層マンションを伴う市街地再開発事業に投入された補助金の半分は、国の補助金=税金から出ているというのだ。
(全くもって意味がわからない。。)
 
 
郊外地域においては、市街地ではないエリアで、無計画に建てられた住居が今後空き家化、空き地化、放置化された土地がまだら状に点在することになり、人口密度が低下していくのである。
土地の安い市街地外で建物が無計画に乱立することで、市街地の人口も減り、全体として人口密度が低下するのだ。
そうなると、行政サービスが非効率化し、高コスト体質になる。
当然自治体も企業もコスト増となり維持管理できなくなるため、商業施設や公共公益施設の統廃合や公共交通網の縮小ということが今後起こってくるのだ。
こうした事態を起こしている要因として、規制緩和がされた市街地化調整区域に、デベロッパーが次々と建設を行っている点と、自治体側は、人口を増やしたい一心で人口増加主義に陥り、思考停止状態にすらある点とがある。
もちろん、将来を見据えて改善・努力をしている自治体も紹介されているが、全体としてこうした問題があるのだ。
特に郊外の場合空き家が増えれば治安が悪くなり、あるいは不審火による火災など、地域に大きなダメージを与えることにもなる。
当然、その地域では資産価値としても決して高いものではないだろう。
 
 
本書ではこうしたことを取り上げ、著者自身の経験や担当者レベルの話を紹介したりしていて、とても濃い内容で問題が語られている。
これまでの旧態依然とした増分主義に基づく様々な政策や思考が、いかに今現在の事態を招いているのか、その結果これから起こる、あるいはもうすでに起こっている問題を紹介し、いかに減分主義の視点で物事を最適化していくのか、ということをとてもプロフェッショナルに書かれているのだ。
 
言いっぱなしにならないように提言を添えているのが誠実であり、かつ、この問題と向き合っている各方面の方々へのメッセージにもなっている。
それはもちろん、これから住宅購入を考えている我々一人一人へのメッセージでもあるのだ。
 
自由な市場経済は健全ではあるが、行き過ぎると時として暴力的にすらなる。
資本主義の限界というのは今に言われ始めたわけではないが、こうした経済性だけはなく、そこで暮らしていく人々の営みを考え、持続可能で最適な運用ができるよう、思慮と計画性を持たなければいけないのではないか。
そのためには、民間と行政が一体となって、将来を見据えた現実的な解を探す必要がある。
日本では将来の明るい展望が共有できないまま閉塞感が漂っているともう何年言われ続けてきただろう。そうしているうちに、トランプ政権が誕生し、国際事情は不透明さを増すばかりだ。
中も外も常に不透明ではあるが、その中で確かなのは日本の人口が確実に減少するということだ。
それに対応するためには、様々な仕組みを変えていかなければならないはずだ。
そんな簡単なことは誰もが分かっているのだろう。
そしてそれがどんなに大変なことなのかも。
そうした中で、気づけばあっという間に地域崩壊に繋がりかねない危険が迫っているのであれば、知らなかったで済まされない事だ。
これは一人でも多くの人が知っていて良い問題だと思う。
 
興味が湧いた方は、是非一読してみては如何でしょう。