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社会保障亡国論

 "ボタンの掛け違いの行き着く先はあまりにも無残です。我々は、子どもや孫の未来を食い潰しているのです。"

社会保障亡国論 (講談社現代新書)

社会保障亡国論 (講談社現代新書)

 

非常に重たい内容の本だ。読んでいて暗暗たる気持ちにもなる。

年金、医療、介護、保育、生活保護、といった社会保障について、現在の日本における財政問題とその阻害要因を一つ一つ丁寧に紐解き、その改善のための提言を紹介してくれている。

今、一般会計における社会保障関係費は全体の3割以上を占め、かかる社会給付費や各個人の自己負担分を含めるとGDPの1/4を占めるまでにもなるという。

日本の経済成長率に大きく影響しているのが、この社会保障費用なのだ。

そして社会保障には債務が発生しており、日本の持つ債務1107兆円(2013年) とは別に、社会保障全体としての純債務が1500兆円にも上るというからもうワケがわからない。

少子高齢化社会の日本では、年間3~4兆円規模で社会保障費が増え続ける一方で、年間50兆円の財政赤字を抱えており、つまり右肩上がりに今後赤字は増えていくのだという。

 

よく言われる世代間格差について、現在の高齢者層は借金のツケを若者に払わせていると言われるが、1940年代と2010年代の間にはおよそ1億円もの格差が広がっているとのことで開いた口が塞がらない。

生まれたその時から借金を背負わせるところから、経済的に、「財政的幼児虐待」と言われるのも納得だ。

 

なぜにこのような状態に陥ってしまったのか?

 

それは年金を始めとした社会保障にかかる費用の捻出を賦課方式を取り、現役世代から高齢者世代へ仕送りしているのに加えて、借金をして給付を行い続けている、という点。

あるいは、医療や福祉の産業では各種規制や公定された価格、補助金などにより競争原理が働かず、高コスト体質になっていることで、それを維持・拡大するために費用が膨れていく、という点にある。

あるいは、急増する生活保護受給者の問題もある。

 

ではどんな対策が必要になってくるか。

年金についていえば、負担の引き上げ、給付の削減・効率化。

医療・福祉について言えば、規制や国からの支援を出来る限り排して、市場に委ね、競争化による効率化を図ること。

生活保護問題については、働く動機を失わさせる「貧困の罠」に対応できるよう、自立できる仕組み作りとして、給付付き税額控除や、第二のセーフティーネットの整備について言及している。

 

とにもかくにも、財政面で見たときの社会保障はとんでもないことになっているのだ。

如何にしていまある高コスト体質の制度を、財政的に改善していけるのか。

このままの体制が続けば、給料の7,8割を社会保障で負担しなければいけなくなる、、、などと書かれては、お先真っ暗も良いところだ。ほんとに。

 

規模を縮小し効率を上げることで、少しでも財政を健全化する。

一方で、財源も確保しなければいけない。

規模の面から、諸費税増税は焼き石に水であるのだから、少子高齢化社会に対応すべく、広く薄くな資産課税にシフトすべきだと筆者は語る。

確かに、社会保障をある程度維持するためには、より多く安定的に、そして公平に徴収できる税金が必要だ。

個人金融資産の6割を高齢者が保有しているという点から、前述した世代間格差を和らげるという意味で、資産課税は良いのかもしれない。

しかし、資本主義に反する性質を持つこの案は、むしろ社会主義の色を持つように思われ、多くの反対が湧くことも予想できる。

 

これを進めるためにもアメリカのような社会保障番号の導入が必要と筆者は説いていおり、それには賛成だ。

マイナンバー制度の運用が今後始まり、銀行預金も対象になったことで、資産把握が出来るようになり、正しい資産課税が行えるものだと期待できる。

資産把握により、例えばバラマキ政策における不正受給問題も解消されるだろうし、広い意味で公正感が出てくることだろう。

他方、情報流出のリスクはあるし、これを材料に徴収した税金が結局無駄使いされてしまうことを想像すると、政治不信は益々深くなるのだと思われる。

 

こうしたように、財政面から語られる厳しい現状と将来の予想は、僕のお腹にボディーブローをかましてくる。

色々と提言はあるものの、中には結構過激というか市場原理主義的な意見もあれば、厚生労働省既得権益を守る団体達の積み重ねてきた経緯は全く持って悪の所業なのでるというお話は、ご自身の経験上から来るものであろう意見でなるほどなぁと勉強になる。

 

巻末、現状の財政問題について、結局のところ著者はこう語る。

"これまでの政府内の改革議論の枠組みは、誰も全体像をみない、誰も将来を考えない、誰も(税を含めた)全体の負担と給付のバランスを考えない、という縦割り行政と近視眼的行動の最たるものと言えます。その結果として、社会保障に膨大な財政赤字が生み出され、長年にわたって全く改まらないことも、当然の帰結と言えるかもしれません。"

そして、全員一致主義の日本行政組織では、ボトムアップで物事を進めると必ずどこかの既得権に抵触するため、結局は現状維持や拡大路線に落ち着いてしまい、抜本的改革などできないのだと言う。

これを解決するには、抜本改革を行える強力なリーダーと、その仕組を整えることであるとされる。

土台となるのは、情報インフラの整備だ。

現状、社会保障費について情報の作成・提出・チェック全てが厚生労働省が行っており、なんでもござれな状態であると指摘し、アメリカのように他機関がチェックできる仕組みを作る、標準の会計方法を用いるなど、情報の透明性を上げる必要がある。

その上で、トップダウンで改革を進められる強力なリーダーと、それを支える仕組みが必要であると説く。

 

本書でも言っていることだが、まずは国民にこの現状を広く理解してもらう必要があるのだろう。

それをしないのは現在の政治家あるいは官僚が逃げ切り世代だからなのだろうか。

あるいは、それを公表することで社会不安が広がり一気に国として傾いてしまうからだろうか。

そうであるなら、何故そのままにしてきたのだろうか。

途方も無い債務が今も膨れていく中、誰もがその風船に目を背けて、責任を取る事なく、逃げ切ろうとしていく。

残された僕らは、ただその風船が破裂するのを待つか、送られる空気を絞るか、あるいは風船から空気を出すような改革が出来るのか。

それにはまず、「膨らんでいく風船が目の前にある」ということを知らなければいけない。

そしてそれは、間違いなく自分に影響を及ぼすことを自覚しなければいけない。

その先にあるのは、国としての在り方や、幸せとは何であるかにも通じる話だよね。

 

社会保障の現状について、知るために役立つ一冊でした。